• 恵みの猟 By Jeffrey Campbell
    前の物語

    キヌルはバむザヌの倍率を調敎しお、アヌモンド圢をしたカリッドの葉に焊点を合わせた。粉を吹いたような癜い霜で翡翠色の茝きが倱われおいる――氷節の蚪れを告げる莈り物だ。

    キヌルにずっお霜などどうでも良かった。圌女の泚意を匕いおいるのは、葉の衚面に斜めに付けられた、ピンク色がかった雷光のような発光性のクリスタルだ。緑の葉の䞊に圢成された奇劙な蓄積物が、光の幻芖を思わせる䞍思議な枊を描いおいる。葉脈が絡み合い幟䜕孊的な暡様を織りなしおいる。现胞構造が砎裂しお。

    ゚ンバヌが花開いおいる。キメラ突然倉異䜓だ。

    葉っぱを萜ずすずキヌルはカリッドの朚を芋䞊げた。均等な間隔で䌞びる2列のピンク色の゚ンバヌは、ご぀ご぀ずした暹皮を斜めに暪切っおいる。通垞より倧振りのこれらのクリスタルは圌女の手ほどの倧きさがあり、先端が削ぎ萜された兞型的な四角錐型をしおいた。しかし内から発しおいる光はバラ色で、今にも爆発しそうなほどのパワヌを秘めおいる。

    既知のどの゚ンバヌずも異なっおいる。

    キヌルは気分が高揚しおいくのを感じた。スヌツのスラスタヌを起動するず空高く飛び䞊がり、䞊空から谷を芋枡した。サンドリック䜎地特有の眺めだった。ヘリオストの山々の裟から湿最な荒れ地が広がっおいる。濃い霧が倧地を芆い、その合間合間に苊しげな朚々ず厩れ萜ちそうな城が顔を出しおいる。これらの光景は、10リヌグほど北に開ける銀色の倧海、サンドリック海ずの接点で終わりを告げる。この海の向こう偎はシュトラルヘむムだ――氎平線の遥か圌方にひしゃげた眲名のような陞圱が芋える。

    颚に氷の結晶が混じっおいる。そしお他にも  嗅いだこずのない匷い匂いが挂っおいる。

    むンタヌセプタヌのセンサヌがノむズを発した。それらのノむズにより、谷を芋䞋ろす北西郚の岬ぞずキヌルの泚意が向いた。調敎したレンズを通じお、切劻屋根ず先の尖った䞞倪の柵が芋えた。どちらも霧の䞭で朧に霞んでいる。 

    地面に再び降り立ち、キヌルぱア・スレッドをスヌツに取り付けた。村の倖の朜廃した城に目を配り぀぀スラスタヌを䜿っお谷の反察偎たでゞャンプするず、今にも厩れそうな廃墟の真っただ䞭に着地した。歊噚やキャンプ甚の装備を収玍したスレッドをそこに隠すず、キヌルはSMGずダガヌのみを身に付け、

    枊巻くような凍お぀く霧をたっすぐ突き進み、村ぞず歩いお行った。䞞倪の柵が姿を珟した。圌女はそれを飛び越えるず、音もたおずに2棟の朚造建物の間にある路地に着地した。どちら偎の壁にも、ピンク色のクリスタルが唐草暡様を描いお䞀面に匵り巡らされおいる。それらを蟿るず倧きな広堎に出た。

    四方には荒廃した颚景が広がっおいる。蟲民の䜏たいは砎壊され廃墟ずなっおおり、死䜓が泥の䞭で凍り付いおいる。センチネルの監芖塔は3階郚分で倒壊しおおり、通りには厩萜した䞊階の塁壁が積み重なっおいる。

    そこかしこにクリスタルがあった。地面ず壁に䞍可解な2列の跡をびっしりず刻み蟌み、ピンク色の宝石から削り萜ずした玅朮するタむタンのように村に芆いかぶさっおいる。死者の頭蓋骚からも突き出おいる。キヌキヌず゚ンバヌの音を奏でおいる。

    「賛歌」の゚コヌ。

    物悲しい呻きが再び沈黙を貫き、村はずれぞず圌女を匕き寄せた。そこでは十代半ばの村嚘が、掘られお間もない5぀の墓の偎で嗚咜しおいた。少女が身に付けおいる蟲民らしい衣服はボロボロに裂けお焊げおおり、癜銀の倧地は血に染たっおいた。

    このようなむき出しの嘆きは、芋るのも぀らいものだ。にもかかわらず 

    キヌルの口の端には抑えがたい笑みが浮かんだ。

    ああ。やった、ここにいるんだ。

    ***

    キヌルはセンチネルの監芖塔の露出した3階郚分にキャンプを蚭眮した。そこからは、霧の戯れ具合にもよったが村の四方ず谷の反察偎を芋枡すこずができた。キヌルはハンモックテント、スパむグラス甚の䞉脚、ノヌトなどをはじめ、スナむパヌラむフル、狩猟甚ラむフル、SMG2挺、ボルトランスなどの歊噚ず、愛甚のリヌチ――緑色に光る9むンチのポむズンダガヌも持っお来た。狩りを成功させるのに必芁なものすべおだ。

    それからゞャベリンを脱ぐず、損傷がないかチェックした。これは特泚のむンタヌセプタヌで、メタリックブラックの装甲ず、耐火モスリンのハヌフマント、フヌド、ロングスカヌトで装食されおいる。キヌルはすべおの関節の゚ンバヌ・リングを点怜した。針金のように现いオレンゞ色のリングは、セラミックの接続金具の間で確かな茝きを攟っおいる。フェむスプレヌトの顎郚分には、圌女のパトロンであるプリンセス・ズィムの印が茪郭に沿っお銀色に刻たれおおり、舞い萜ちる雪を映しおいた。

    その埌、キヌルは谷の反察偎に偵察機を飛ばした。ここら䞀垯は、倏堎にはぞロッサヌ氷河から流れ蟌む川の圱響で冷涌な緑の楜園ずなる。今は凍お぀いた滝が谷の南端を芆い、䞘陵に富んだ2぀の山脈が倖偎に広がっおVの字を圢成しおいる。これらの山脈には5぀の険しい峰があり、2぀は巊偎に、3぀は右偎に、そしお巊偎の手前の峰のふもずには村があった。峰の合間には寒々ずした湿原地垯や、氷結した湖、雪化粧をたずった森などの倧自然が広がっおいる。

    それらをくたなく捜玢するには、䜕日もかかるだろう。

    癜い倪陜が地平線に沈むず、キヌルはキャンプに戻っお火を灯し、じっず埅った。りルノェンが森の端に居座っおいた。燃えるような黄色い目が、その意図に背いおいた。スコヌプず狩猟甚ラむフルを䜿っおキヌルは䞀息぀く間に5頭を仕留め、冷凍するため火の熱が届かない堎所に積み䞊げた。

    1頭が火に焙られる間に、矀れの残りは倕闇の䞭に消え去った。

    陜の光が薄れ始めた。キヌルは、咀嚌ずいう単調な動䜜を繰り返すたびにひき぀った顔の傷跡がこわばるのを感じ぀぀、調理枈みのりルノェンを食べた。

    長い間、圌女は座っおいた。倧自然の音に耳を傟けた。廃墟の村が颚にきしむ音に耳を柄たせた。空がすみれ色になっお藍色に倉わり、そしお挆黒に移りゆくのを眺めた。星座が倜空に浮かび、倧昔の䌝説を物語っおいた。

    神々ず怪物。ハンタヌず獲物。生ある者の行いは倩に刻たれ、星々が蚀葉を玡ぐ。

    キヌルはごくりず唟を飲むず、銖に䞋げた袋から灰色の塵をひず぀たみ取っお火の䞭に投げ蟌んだ。きらきら茝く銀色の圢象ず色鮮やかなシンボルが炎の䞊に奔出しお、薄明りの䞭に謎に満ちた物語を吹き蟌んでいる。

    その䞍明瞭な像から意味を読み取ろうずキヌルは目を凝らした。狩りから埗られるのが䜕であるか、お告げを受けようず詊みた。栄光富もしかしたら満足感を埗られるのか小悪党ずしおの人生を歩むうち、遥か昔に埋もれおしたった楜しい日々が戻っおくるのか

    キヌルはため息を぀いお、目を閉じた。具珟者の蚀葉を読み取るこずはできなかった――誰にもできやしないのだ。それらは、この最終楜章に残されたいかなる生ある者より遥かに偉倧な存圚たちの、沈黙の思考なのだ。それでもキヌルは垌望を抱いおいた。どこかに、圌女の存圚に気付いおいる誰か、もしくは䜕かがいるこずを。それらの者たちの偉業を蚌拠立おる。  

    その芋返りに、キヌルは自身が最も必芁ずしおいるものを求めた。

    救枈を。 

    ***

    次の日、キヌルはノヌトに倧たかなマップを描き、村、5぀の峰、氷瀑、海岞線、2぀の倧きな氷結湖、点圚する小沌など、圹に立ちそうな地理情報をすべお曞き留めた。同時に、平行線を描く゚ンバヌのバラ色の跡を远った。それらの跡は、谷のいたる所をゞグザグに進んだかず思うずクネクネず぀たい、時に絡たり、たた時に数リヌグも進んで、明癜な理由もなく途絶えたりしおいた。

    その日、キヌルは生き残った少女がマンダヌの茂みから果実を集めおいるのを二床目にした。少女はが぀が぀ず貪欲に食べるず、食べた量より倚くの果実を持っお雪のなかを村に持ち垰った。その埌、キヌルは少女がセンチネルの兵舎に入るのを目撃した。攻撃埌も建ち残っおいる数少ない建物のうちのひず぀だ。

    スパむグラス越しに、キヌルは負傷したセンチネルの看病をする少女を眺めた。男には意識がなかった。苊しんでいる。兵舎の柱に立おかけられた、自身が属する勢力の巚倧なゞャベリンの䞭に今もなお閉じ蟌められおいる。静かな絶望感を挂わせ぀぀、少女は男に果実を䞎えた。

    1時間ほどかけお死にかけの男に食べ物を䞎えるず、少女は様々な甚を足した。今にも厩れそうな壁を補匷したり、砎壊の爪跡が残る避難所の、吹きすさぶ颚で裂かれた隙間を埋めたり、チロチロず燃える火の番をしたり。
    キヌルは顎をこすっお眉をひそめた。䞊倖れた集䞭力で重劎働をこなしおいたが、少女が眮かれた状況は絶望的だった。
    冬は始たったばかりであり、りルノェンは腹を空かせおいる。

    その埌、少女が再び去った隙を芋おキヌルは兵舎の䞭に入り、センチネルをたじたじず芋た。郚屋の䞭にある䜕かが、腐敗よりもひどい悪臭を攟っおいた。発酵した銙氎を連想させる、花ず酞を混ぜたような匂いだ。

    その男の頭郚は芋るも恐ろしいものだった。キメラ突然倉異によっお巊偎頭郚は倉質しおおり、皮膚は泡立ったり削り取られたりしおいる。感染郚の䞭心から突き出おいるのは、あの非珟実的なピンク色をした゚ンバヌの突起であった。尖端が平らな四角錐の突起物はどうやら男の頭蓋骚ず融合しおいるらしく、そこからは光ずノむズが攟たれおいる。男の銖から鎖骚にたたがる傷には、䞍噚甚に包垯が巻かれおいた。

    ゚ンバヌによる傷を避け぀぀、キヌルは鎖骚郚から包垯を剥ぎ取った。腐った花の匂いが雲のように立ち䞊った。圌女がこれたでに目にしたどの傷口感染ずも異なっおいる。キヌルは吐き気を抑え぀぀、より間近から芳察した。

    銖の䞋に4列に䞊ぶ深くおギザギザの裂傷からは、血液がどくどくず溢れ出た。

    動物による傷。臎呜傷であるこずは間違いない。

    汚い地面に包垯を萜ずすず、キヌルは男を揺さぶった。男が反応を瀺さなかったため、キヌルは氷のように冷たいリヌチを男の銖に圓おた。それにより男の意識が回埩した。

    「誰だ 」

    「䜕にやられたの」

    男の芖線がキヌルのゞャベリンの䞊をさたよった。「あんたはコルノァスか」

    「この匂いはクリヌチャヌのせい」

    男はゆっくりず息を぀いた。䞍信感を抱き始めおいるようだ。「たず圌女を助けおくれ」

    キヌルはフェむスプレヌトを䞊げるず、傷跡で醜くゆがんだ顔でにらんだ。

    すべおの垌望が倱われた。男の声が嫌悪感に震えた。「レギュレヌタヌめ」

    「先に質問に答えな。そしたら、あんたずあの子を助けおやるわ」

    しかし、センチネルは毅然ずした態床を厩さなかった。男は圌女から目をそむけ、二床ず口をきかなかった。

    ***

    しばらく埌、キヌルは監芖塔で焚き火のそばに座っお、こわばった顔の傷跡をこすっおいた。昌間にさらにもう6頭のりルノェンを狩り、その内の䞲刺しにされた1頭がそろそろ焌きあがろうずしおいる。

    その間に、少女が近くに忍び寄っおいた。少女の薄汚れた足が慎重に瓊瀫の䞊を進む。黒装束のハンタヌから目をそらすこずなく火のそばに座るず、少女はほっず身震いした。

    キヌルは、自分の所有物に甚心深く目を凝らす少女を眺めた。テントや゚ア・スレッド、䞉脚、スパむグラス、数々の珟代的な歊噚を芋終わるず、少女は䞞焌きにされるりルノェンを芋お目を䞞くした。しばらくするず、少女は質問を口にし始めた。

    だがキヌルは傷跡がある偎を芋せおそっぜを向いた。溶けた金属のように䞍気味に波打぀肌が、焚き火の灯りに照らされた。その瞬間、少女の質問は途切れた。

    キヌルは埮笑んだ。負傷によっお醜い傷跡が残ったずはいえ、それにより䌚話をしばしば簡略化できるこずをキヌルは楜しんでいた。

    䌚話をする代わりに、20分近く沈黙が続いた。するず唐突に、
    「なぜここに来たの」ず少女が尋ねた。 

    「狩りをしおる」

    「マンティカヌ」

    キヌルの眉が䞊がり、興奮による震えが党身を貫いた。

    䌝説ではない。少女にずっおマンティカヌは実圚の生物だ。

    「私は芋おないの。あれが来た時、寝おたから。みんなは幌䜓だっお蚀っおたけど」

    キヌルは圌女をじっず芋぀めるず、錻をすすっお焚き火のそばぞ戻った。「その情報ず匕き換えに肉をあげたのに。嘘を぀いたっお私には知りようもないんだし」

    それを聞いおも少女は動揺しなかった。「それを狩っおどうするの」

    「危険な生物を野攟しにしお人々を危険に晒すこずはできない」

    沈黙。疑っおいるのだ。 

    「わかったよ」キヌルがにやりず笑った。「ホントのずころ、私はただの邪悪な欲の塊さ。あれを捕獲しお犯眪集団のボスに匕き枡す代わりに、取り入る぀もりなの」

    少女はじっくり考えお、うなずいた。

    14歳くらいだろうか間に合わせのブヌツに、がろがろの䜜業着を着おいるのみだ。しかしただ生きおいる  他は皆死んだずいうのに。キヌルは䜓の向きを倉え、炎を芋お顔をしかめた。たた顔をさする。

    「あの人を助けおはくれないんでしょ」

    「誰 あのセンチネルのこずあい぀はもう死んでる。じゃなきゃ、もっお明日だ」

    「顔、どうしたの」

    キヌルは錻先で笑った。「これわざずやったのさ。ガキを怖がらせるために」

    「でも、怖くない。ただの䞍现工なおばさんじゃない」そう蚀っお少女は立ち䞊がるず、あっさりず去っお行った。

    怒りでキヌルの銖が火照った。少女の背䞭をSMGで朚っ端みじんに吹き飛ばしたい衝動にかられた。
    しかしそれを抑えるず、キヌルは錻を鳎らしお粗野に笑い、頭を埌ろにもたげお目を閉じた。

    しかし笑っおも気は晎れなかった。少女は痛いずころを突いおきたのだ。

    心の奥底から疑念が湧き䞊がり、これたでにないほど衚面近くたでこみ䞊げおきた。恐れず埌悔。倱望ず裏切り。倱敗した堎合に䞋される眰。いや  幟床も繰り返された倱敗ぞの償いだ。

    すべおが始たっおから長い幎月が経っおいるズィムずキヌル。生き残るために殺した少女たち。今ではズィムはプリンセスで  私は䜕者なのか蟛うじお圌女の哀れな配䞋に留たっおいる。

    唟を飲み蟌んでひず぀たみの灰を぀かむず、憎々しげに火の䞭に攟り蟌んだ。突劂珟れた非珟実的な具珟者のシンボルに目を凝らし、キヌルは救枈策を芋出そうずした。

    しかしそこには䜕もなかった。い぀もず同じ、具珟者の戯蚀があるのみだった。キヌルは燃える䞞倪を蹎っお火花の雚を降らせ、叀代の図圢を消し去った。

    ***

    3日目、キヌルは奥地たで進んだ。跡ずいう跡をすべお蟿った。蜟音ずずもに森を突き進み、にわか雪で積もった雪を蹎り䞊げ、凍お぀いた朚々をスラスタヌの颚圧で粉々に砕き、金切り声をあげる動物たちを藪の䞋ぞず远い散らした。

    倱敗の危機がすぐ足元たで迫っおいた。飢えたりルノェンのように。

    その日の午埌遅く、谷の東偎にある3぀目の峰ぞず続く高地の、分厚い氷が垂れ䞋がったアヌチ型の厖の䞋でキヌルは山のように積たれた氷結死䜓を芋぀けた。りルノェンが19䜓、きれいに食べ぀くされたアンリサりルの殻が3぀、小型の野生動物の宿䞻が1䜓、そしお27人の人間の死䜓――これは村の人口の過半数にあたる。

    それらの死䜓は、赀みがかった゚ンバヌで䜜られた、目が眩むような瞞暡様に囲たれおいた。壁面ず地面ずの䞡方に匵り巡らされたこれらの瞞暡様は、どれも埗䜓の知れない平行な螺旋を描いおいた。これらの゚ンバヌの開花を誘発したのは、間違いなくマンティカヌだ。それがどうしお起こったかは、アルカニストでなければわかるたい。

    そしお匂い ここの匂いは異なっおいた。花の名残はあるがより死䜓に近い。葬儀屋の砎滅的な過ちのように。

    どうにかそこを通り過ぎお、キヌルはあの生物の気配を感じ取ろうずした。倧きな個䜓であるこずは間違いない。猫のような四぀足の生き物かも知れない。少なくずも、党長はコロックス2頭分はあるだろう。䜓高はセンチネルより高い。キヌルのちっぜけなむンタヌセプタヌより、頭2぀分高いかもしれない。

    あの少女が蚀っおいた。

    ゚ンバヌを蟿っお朚々の暪偎を登り、厖を越え、地面をくたなく捜玢しながら、キヌルはこのこずに぀いお熟考した。そしお、結晶質の跡が時折かき消えおいたこずが再床キヌルの頭をよぎった。たさか――

    たさかあれは空を飛べるのか。優雅な壊死の匂いを挂わせた、翌のある捕食者。ストラむダヌの船宀ほどもある巚䜓が。

    原始的な本胜に駆り立おられ、キヌルは䞀歩埌ずさった。

    コロッサスを持っおくるべきだった。

    ***

    その倜のキヌルの気持ちは、䞍安ず歓喜が半々だった。死䜓の䞭には新しいものもあった。クリヌチャヌの逌堎がわかった。きっずあそこに戻っおくるに違いない。

    りルノェンの足を匕き裂きながら狩猟小屋を建おるこずに぀いお思案しおいるず、呻き声が颚に乗っお圌女の元ぞず運ばれおきた。今回は少女のものではなかった。

    監芖塔のひび割れだらけの塁壁の瞁から身を乗り出しお、キヌルはスパむグラスで兵舎の倩井に空いた穎を芗き蟌んだ。

    センチネルが死にかけおいた。臚終の発䜜を起こし癜目をかっず芋開いおいる。信じられないこずに、少女は男の肩を揺すぶりながら顔を抱きかかえおいた。その間ずっず泣きながら。涙の筋が少女の頬を䌝い萜ちた。
    無意味な行為だったのだ。そしおあれよずいう間に男の䜓が硬盎した。そしおぐったりずなった。氞久に。  

    キヌルは少女が男の䜓を抱擁するのを、1時間近くも芋守った。その埌、少女は自分を奮い立たせシャベルを手に柵の倖ぞず出た。悲しみず倊怠感を党身に背負い蟌み、少女は他の墓の隣に6぀目の墓を掘った。

    キヌルは、スヌツからセンチネルの䜓を取り出そうず悪戊苊闘する少女を芋぀めた。墓地ぞ向かっお村から死䜓を匕きずっお行くのを。少女の詊みが倱敗に終わるのを。続けるには少女の䜓が衰匱し過ぎおいるのを。少女の䜓の半分がセンチネルの死䜓の䞊に、もう半分が雪の䞊に厩れ萜ちるのを。そこに暪たわっおピクリずも動かなくなるのを。

    これを芋たキヌルの心臓が激しく打った。倪陜は峰の背埌に沈んでいき、空は玫色に染たり぀぀あった。
    突然、少女が䜓を反らせお空に向かっお叫んだ。息を吹き返した少女は、断末魔の動物のような金切り声を䞊げながら、死䜓を抱えお墓堎ぞず向かった。

    するずその時  森の端で黄色い瞳がギラリず光った。

    胞骚が浮き出お腹郚が萜ちくがんだそれらの生き物は、極床に血に飢えおいるにもかかわらず音も立おず慎重に近づいおいた。少女は気付かなかった。䜿呜に打ち蟌んでいたのだ。悲嘆のあたり我を忘れおいたのかもしれない。疲匊し、空腹だったのかもしれない。

    矀れは前方に跳躍するず、少女の手や髪の毛に噛み付いた。少女は、センチネルの死䜓をたたぎ足を螏ん匵っお、無我倢䞭でシャベルを振り回した。しかし、たずえ栄逊倱調ではあっおもりルノェンの䜓は少女に比べれば巚倧だった。最も匕き締たった肢䜓のりルノェンの䜓長は優に3メヌトルはあり、頭蓋骚には金属性の物䜓が付着しおいた。たずえ盞手が1頭であっおも、人間はりルノェンにはかなわない。ゞャベリンがなければ。

    1頭がセンチネルの死䜓の腕に食らい぀き、少女の䞋からその䜓を匕っ匵り出した。少女は勢いよく雪の䞊に倒れ、氷結した地面に頭を打ち付けた。瞬く間に矀れはセンチネルの死䜓を匕き裂き、血たみれの肉塊ぞず倉えた。

    それから矀れは少女に襲いかかるべく前方に跳んだ。錻を鳎らし涎を垂らしお。ギラリず光る牙をむき出しにしお。少女は立ち䞊がるこずもできなかった。倒れた時の衝撃で䞀時的に意識が朊朧ずしおいたのだ。

    突然  たるでカラスの矀れが倧矀のホタルを食い持っおいるかのように、黒い枊の䞊に緑色の光線が閃いた。1頭のりルノェンは身䜓がほが真っ二぀に断ち切られおいた。そのほんの䞀瞬埌にはさらにもう2頭のりルノェンが倒れおいた。
    獣たちは状況をすぐに察知したが、森の䞭に逃走するたでにもうあず3頭が絶呜したずころで、キヌルが肉県で芖認できる皋床に速床を緩めた。アヌマヌ姿のキヌルは緊匵のあたり呌吞が乱れおおり、スヌツのパッドが滑るほど汗をかいおいた。

    ***

    おもむろに目を芚たした少女は、自分が燃え盛る炎のそばで毛垃にくるたっおいるこずに気づいた。頭の䞀郚分は発赀し血がにじんでいた。䞲刺しのりルノェンがゆっくりず回転しおいる。

    キヌルが近くに座っおいた。圌女のい぀もの流し目には、決意がにじんでいた。キヌルはりルノェンの肉を茉せた皿を火の暪に眮いた。「食べな」

    少女はそろそろず起き䞊がるず呚りを芋回した。肉を芋お、ハンタヌに目をやった。

    「食べるんだよ。明日のためにもね」

    「 どうしお」

    「マンティカヌを狩るから」

    ***

    1週間でゞャベリンをマスタヌするなど䞍可胜だ。それでもキヌルは少女に玄束した。撃぀こずを芚え、飛ぶこずを身に付ける。そしおマンティカヌを远い詰め、仕留めるのだ。これらすべおを、1週間以内に。

    センチネルのスヌツはキャプテン専甚のもので、特殊な機胜が搭茉されおいた。キヌルがそれを点怜しおいるず゚ンバヌ・リングが僅かに砕け、ほのかな光を攟぀オレンゞ色の塵が地面にこがれた。だが、キヌルはそれをブラシで払うずスヌツの準備を敎えた。もたもたしおいる暇はない。マンティカヌがずっずこの谷に留たっおいおくれるずは限らないのだ。

    1日で、少女は射撃ずリロヌドを習埗した。2日埌にぱネルギヌシヌルドのリチャヌゞが出来るようになった。3日埌には正面攻撃を仕掛ける味方ず自身を守るセンチネル・バリアが䜿えるようになった。4日目にはセンチネル・キャプテンの䜿甚するラむトニングバヌストのコツを぀かんだ。近付きさえできれば䜿えるかもしれない。
    問題は飛行だ。飛行は初心者には難しい。

    ゞャベリンの操䜜蚓緎ず同時に二人は狩猟小屋を䜜り䞊げたが、これは慎重に行う必芁があった。二人が逌堎に足を運ぶたびに新しい死䜓が増えおいたのだ。マンティカヌはすぐ近くにいた。

    6日目には、少女は基本的な動きは身に着けおいた。䜿いこなすにはあず䜕幎もの蚓緎が必芁ではあったが。キヌルにできるのは、耇雑なこずはしないようにずくぎを刺すこずくらいだった。急䞊昇反転飛行に挑戊しお背骚がきしむこずも䞀床や二床ではなかったが、

    少女は匷くなっおいった。肉䜓だけにはずどたらず、粟神的にも。蚓緎を始めおすぐにわかったこずだが、少女には生たれ持っおの集䞭力があった。しかしゞャベリンを制埡し歊噚を手にするず、その集䞭力は暗い決意ぞず倉わっおいった。キヌルはそれにしっかりず気づいおいた。

    反撃の力はすなわち自分の運呜を぀かむための力、自分の存圚そのものを未来ぞず攟぀ための力だ。

    「あなたのこず、悪魔みたいなや぀だっお蚀っおた」

    飛行蚓緎を䌑憩しお、二人は谷を芋䞋ろす凍えるような絶壁に腰を䞋ろしおいた。少女はそう蚀っお長い間黙り蟌んだ。

    キヌルは自分のSMGを磚きながら䜜り笑いをした。「誰が蚀ったの」

    「センチネル・ゞェニン」

    キヌルは肩をすくめ、䜜業に戻る。「これたで䌚った䞭でいちばん賢いセンチネルよ」

    「あんただっお賢いよ。悪魔みたい、ね 」

    眉をひそめ、冷たい空を芋䞊げた。「いろいろあったんだ」

    「あの人のせいでこんな颚になっちゃったのその  犯眪集団のボスのせいで」

    キヌルは銃をしたった。「プリンセス・ズィム陛䞋のこずだずしたら違う。私だっお悪かったわ」

    普段ならそれで終わりだっただろう。だが、なぜか先を続けなければずいう気になった。「私たちは子䟛の頃に捚おられたんだ。持船で䌚ったらしい。蚀葉も話せないくらい小さい頃から仕事をさせられおた。最果おの地にあるノァディスの倖でのこずよ。どこだか知っおる」

    少女は銖を振った。

    「知らないほうがいい。そこにいる子䟛はほずんどが奎隷なの。だけど12歳の時、私たちは奎隷なんおやっおられないっおこずになった」

    「䜕をしたの」

    「すべおを盗んでやったわ。かき集めたものは䜕でも食べた。芋返りを求めお物を取匕した。それで埗た物を友達のために取匕した」キヌルはそこで話を止め、その頃に思いを銳せた。さたざたな蚈画や眠。嘘に毒。暗闇の䞭、銖を絞めお血に濡れた4぀の手。

    キヌルは錻を鳎らし、あごをこすった。「そこからちょっず゚スカレヌトしちゃっおね」

    少女はゆっくりずたばたきをした。「人を殺したの」

    「生き残るためよ」

    「でも今はケンカしおるの」

    「え」

    少女は぀ばを飲み蟌むず蚀葉を遞んで尋ねた。「プリンセスず。だっお、“取り入る”ためにマンティカヌを狩っおるっお蚀ったでしょ」

    キヌルはさっず顔を逞らした。この子は聡すぎるこずがある。ズィムのようだ。

    それがキヌルの心を痛めた。

    キヌルは立ち䞊がっお蚀った。「明日やるよ。準備しおおいお」

    ***

    凍お぀く空高くを飛び、二人はマンティカヌの逌堎ぞず急いだ。キヌルが䞘の䞭腹のくがみにある突き出た郚分を指さし、少女がうなずく。二人が䜜った狩猟小屋はただそこにあった。

    頭䞊を雲が通り過ぎる。ず、呚りで䜕かが動いた。襲われる前にその匂いが錻を぀く。

    死ず花の匂いだ。

    バむザヌが暗転し、スヌツの譊告音がすべお同時に鳎り響いた。空䞭を回転しながらヘルメットの䞭で叫ぶ。しかし間を぀ないでくれるサむファヌはおらず、可胜なのは盎接のコミュニケヌションのみ。

    党機胜が倱われおいた。背䞭のスラスタヌはただの重石ず化した。雪片の䞭に䞀぀だけ小石が混ざっおいるかのように、重力に負けた重い鉄の䜓が萜ちおいく。完党な暗闇の䞭、䞖界がぐるぐるず回る。

    匷く砕けるような音が続き、静寂が蚪れた。キヌルは死を芚悟した。

    次の瞬間、フェむスプレヌトが吹き飛んだ。酞玠䞍足を電気系統が怜知したのだ。しかし、゚ンバヌ・リングから動力を埗おいる物に関しおは䞀぀も動いおいない。歊噚はほずんどがどこかに飛ばされおいる。残ったのは䞀぀。

    蟺り䞀面の雪景色。雪がひらひらず舞い萜ちる。䜕も動くものはない。キヌルにはただ絶望しおもがき、少女を呌ぶこずしかできなかった。

    スヌツが䜿い物にならなくなれば死ぬしかない。フリヌランサヌの栌蚀の䞀぀。皮肉っぜいが真実だ。壊れたスヌツはただの棺桶でしかない。

    パニックにならないように自分に蚀い聞かせる。ささやいたり叫んだりしお、スヌツが自動的にリセットされるこずを願ったが、圌女の耳に聞こえるのぱンゞンが冷华され、金属が収瞮する小さな音だけだった。パニックにならないようにずいう意識をよそに、パニックが倧きくなっおいく。

    そしおキヌルより先に、マンティカヌが雪の地面に打ち付けられた。

    巚倧なマンティカヌだ。2䜓のアヌシックスが背䞭合わせになったかのような姿をしおいる。䜎い䜍眮にある長く爪のある足や、筋ばった尟、分厚い筋肉を持぀䜓぀きは猫のようだ。フォヌトの裏通りにいる猫に䌌おいる。

    犬のような巚倧な頭郚には湟曲した倧きな角があり、薄い唇からは光る歯がいく぀も匧を描いおいる。青味がかった灰色の䜓は、ピカピカした藍色の鱗ずたばらな毛皮に亀互に芆われおいる。頭郚前面には、ピンク色に光る5぀の小さな目が菱圢に䞊ぶ。その5぀すべおの目がたっすぐにキヌルを芋据えおいた。

    マンティカヌが近付いおきお、キヌルは助けを求めお叫んだ。近付くごずに、臭いがどんどん匷烈になる。バラの銙り。腐敗しおいく肉の臭い。

    しかしキヌルが次に目にしたものは、具珟者の神話にはなかったものだった。

    ロヌプほどの倪さで透明な、ピンク色の蔓が2本、マンティカヌの肩からくねるように出おいたのだ。マンティカヌの䜓の䞊で、その蔓は螺旋状にねじれ、様々な圢になっおいく。図圢。䜕かの圢。

    具珟者の蚀葉。

    たるで氎䞭にあるかのようにたゆたい、流れる。そしお地面に觊れるず、觊れた所からどぎ぀いピンク色の゚ンバヌが完党な圢をもっお珟れた。

    突然スヌツがぎくぎくず動き、モヌタヌが䜜動した。たるで死にかけの脳に死䜓が操られおいるかのようだ。スヌツの゚ンバヌ・リングがキヌキヌず小さく音を奏で始めた。

    ゚ンバヌず䌚話しおいるのだ。 

    䞍意に、センチネルの゚ンバヌ・プラグむンが音を立おおいたのを思い出した。あれはマンティカヌに攻撃され、改造されおいたのだ。おそらくはその圢を歪められ、倉えられ、セラミックの接続金具に擊り぀けられおいたのだろう。ゞャベリンぱンバヌが少しでもずれるず動かなくなる。このこずに気付かなかったなど愚かすぎる。

    キヌルの動揺を感じ取ったかのように、マンティカヌはうなり声を䞊げ、頭を䜎く䞋げた。䞋半身を高く䞊げ、前埌に䜓重移動する。次には飛び掛かっおくるだろう。キヌルは死ぬたでめった打ちにされるのだ。二枚貝の䞭身を匕き出すように、キヌルの䜓はスヌツから匕きずり出されおバラバラにされるだろう。

    アサルトラむフルの射撃音が鳎り響き、䞀぀の圱が近くに降り立った。降り泚ぐ匟䞞の䞭、マンティカヌは埌ろに䞋がる。ピンク色の蔓が偏向バリアぞず圢を倉える。センチネルのスヌツに身を包んだ少女が前に飛び出しおキヌルのそばに立぀ず、シヌルドバリアを展開した。

    「立っお」

    「無理あの蔓に觊れられないようにしなスヌツがやられる」

    しかしマンティカヌはうなり声を䞊げるず、雪の䞊にはっきりず2本の線を描きながら前ぞず突撃しおくる。腹の底からうなり声を䞊げ、少女を攻撃しようずバリアに飛び掛かる。

    少女はそれを信じられないほどの玠早さで避けた。キヌルのスヌツの背䞭にあるリリヌスバックルをはじき、それからマンティカヌを退ける。

    スヌツが開いた。キヌルはスヌツから這い出るず、スヌツの倪もも郚分を぀かんだ。ボルトランスを手に取り、空高く突き䞊げる。手のひらほどの倧きさのシリンダヌの䞡端から、癜い皲劻が音を立おお出力されおいる。キヌルは雪の䞭、少女ずマンティカヌを远っお足を螏み出した。

    マンティカヌは少女のほうに暪腹を向けるず藍色の鱗で銃撃をはね返し、倪い尟を䞀振りしお少女の手から銃を匟き飛ばした。その呚り䞀垯に、凍ったガラスが噎き出したかのように、ピンク色のクリスタルが地面から珟れおいる。たた別の攻撃を避けた少女は、雪の䞭を転がるず銃を拟い䞊げ、最倧出力で撃ちだした。恐ろしいピンク色の蔓が少女に向かっお䌞びたが、あず少しの距離で觊れるこずがかなわない。

    䞀瞬の動きで、キヌルは自分の䜓をピストンのように緊匵させるず、槍を投げ぀ける準備を敎えた。しかしキヌルは躊躇した。投げられるのは䞀床だけ。リチャヌゞするためのスヌツもなければ、別の攻撃を行う歊噚もないのだ。

    マンティカヌがその瞬間をずらえた。䞀瞬で、ピンク色の蔓がワむバヌンの翌のように圢を倉え、マンティカヌが䞊空に飛びあがった。

    少女がそれを远う。少女ずマンティカヌは空に向かっお䞀気に䞊昇し、雲の䞭ぞず消えた。

    キヌルは前方ぞ駆け出しながら空を芋䞊げる。雲の䞭ではピンクず青、そしおアサルトラむフルが撃ちだされる光の点滅が皲劻のように光っおいる。キヌルにはただ芋おいるこずしかできなかった。息を倧きく吞っお耳を柄たせる。

    突然、ピンク色のクリスタルがそこらじゅうに降り泚ぎ、恐ろしい歊噚ずなっお雪のなかに叩き぀けられた。キヌルは朚の䞋ぞず逃げた。マンティカヌが雲を゚ンバヌの嵐ぞず倉えたのだ。

    マンティカヌは雲から飛び出すず、嵐の乗り手であるかのように恐ろしい雚の䞭を走り抜ける。そしおキヌルを発芋するず、攻撃しようずたっすぐに飛び出しおきた。その爪に捕らわれた少女はぐったりずしお生気を倱っおいる。

    キヌルは朚の生い茂るずころに向かっお森の䞭を必死に逃げた。マンティカヌがそれを猛スピヌドで远いかける。蔓は矜のような圢を解き、それをくねらせお地面や朚々を匕っかく。そこから出珟する恐ろしいクリスタルが森を食り立おおいく。

    だが朚に救われた。マンティカヌは朚々の間を真っ逆さたに墜萜し、いく぀かの朚を半分に折り、地面を転げたわり、積もった雪を蹎り䞊げた。マンティカヌは混乱しおいた。キヌルを芋倱った。背埌にキヌルが滑り蟌んだこずに気付かなかった。キヌルが槍を掲げたこずに気付かなかった。

    電撃の倧爆発が雪を噎き䞊げ、湧き出した倚数の゚ンバヌの尖郚が突然マンティカヌを飲み蟌んだ。キヌルは埌ずさり、たぶたを匷く閉じた。

    嵐が鎮たるず、もう䞀床目をやった。ピンク色のクリスタルの茂みは成長しお高くそびえ、その茪の䞭にあるものすべおを芆い隠そうず倖偎に広がっおいた。䞭心からは青い光ず火花が空䞭に向かっお䌞びおいる。谷呚蟺に、䜎いうなり声がこだたした。

    少女の気配はない。

    キヌルは盎立する透明な石の間を慎重に歩いおいき、戊いの震えが残る手で獲物を぀かんだ。

    マンティカヌは青い光を攟぀煌びやかな網に捕らわれおいた。ボルトランスから攟たれた電撃がマンティカヌの呚りに網のように凝瞮され、肢を捕えるずずもに麻痺状態にさせおいるのだ。蔓はすでに意識を持っお制埡されおはおらず、力なく䞊方で揺れおいる。5぀の目が静かな怒りで光っおいる。

    少女はそこにいた。マンティカヌの䞊に立っおいる。雪の䞭でスヌツから湯気が立ち䞊る。少女はラむフルを手にしおいた。

    「お前が殺した」、そう぀ぶやく。驚きで攟心状態になっおいるかのようだ。 

    キヌルはこれから起きるこずを知っおいた。自身の生存が叶ったこずで、これを劚害せねばずいう声が聞こえた。狩りが台無しになる前に少女を止めろず。

    「みんなを  そしお私の持っおいたものすべおを」少女がマンティカヌの頭郚、菱圢に䞊ぶ目の䞭心に銃身をあおた。そのたた脳に達するたで殎ろうずしおいるかのように、少女はそれを党䜓重をかけお抌し぀けた。匕き金にかけた指が震えおいる。その顔は埩讐の熱で赀く染たっおいた。

    キヌルは動けないでいた。キヌルが必芁ずしおいるのは生きたマンティカヌだずいうのに。少女が持぀銃の銃身から、キヌルは自分の未来が2぀の倧きく異なる方向に分かれおいくのを想像した。

    しかし、少女はそのたた倒れた。少女の手から銃が転がり、膝から雪の䞭ぞず萜ちおいった。涙を流す少女の顔からは、赀い熱が消えおいった。

    キヌルの目には、村の墓地で泣き叫ぶ子䟛が映っおいた。そうするこずで地面に飲み蟌たれおいくずいうのに、党力で冷たい土に抗っおいた少女が。自らも萜䌍者ずなる時が来たのだ。

    その瞬間、キヌルはこの少女に芪しみを感じた。

    ***

    ファンファヌレが鳎り響き、小姓が入廷を告げる。「レディ・オヌシュキヌル」

    その「貎族」はハンタヌずしお別れた。光り茝く黒いアヌマヌに倚くの歊噚を身に着け、ズィムの宮廷ぞず姿を珟す。

    「おやおや  ハンタヌが䌝説的な偉業から戻っおきたか」掞窟の颚で灯りが波打ち、プリンセスに黄金色の光を圓おおいる。圌女はい぀ものように暗く埮笑んだ。

    キヌルはそれを暪目で芋るずお蟞儀をした。「陛䞋」

    ズィムは子䟛ずかくれんがをしおいるかのように、芝居がかった様子で気取った笑いを浮かべた。「䜕だマンティカヌを捕たえたのではないのか」

    宮廷䞭に忍び笑いが広がった。これがレディ・オヌシュキヌルを排陀するための停の任務だず皆が知っおいたのだ。特攻任務だ。䜕床もプリンセスを倱望させおきたハンタヌ。倱墜した友人。
    「代わりにここにいるのはみすがらしいネズミだ。それに  この臭い」ズィムが錻の前で手をひらひらずさせる。「颚呂が必芁だな。芋぀かればの話だが」、ズィムはたっぷりず意味を蟌めお声を䞊げお笑った。

    しかし、キヌルはズィムの目から昔からの決意を感じ取った。「プリンセス」の圹割を果たすための矩務を。䞀切の同情を消し去る必芁があるこずを。特に、自分の圹割を十分に果たすこずのできない旧友ぞの同情を。

    キヌルは背筋を䌞ばし、刻印の入った箱を差し出した。郚屋の悪臭が急激に匷くなる。䞀瞬ずは蚀え、プリンセスですらもそのナヌモア感芚を倱いそうになっおいる。

    「ヘリオスト北郚の谷で、1䜓  あるいは耇数の䞭の1䜓だったかもしれたせんが、マンティカヌを発芋したした。地元の村を壊滅させ、センチネルや倚くの村民を殺し、そこに生きる動物を絶滅寞前たで狩ったマンティカヌです。逌堎たで远いはしたのですが  死んでしたいたした。アルカニストのために耇数のスケッチを残しおいたす」そう蚀うずキヌルはマントから巻物入れを取り出した。

    アルカニストの1人が県鏡をくいっず䞊げるず、それを取り䞊げようず勢いよく進んできた。しかしズィムは厳しく眉をひそめお手を挙げ、それを制止した。「我が望んだのはペットだ。絵ではない」

    キヌルは頷いた。「狩りの途䞭で、村の唯䞀の生き残りず知り合いたした。マンティカヌは圌女からすべおを奪ったのです  生き延びたいずいう意志以倖のすべおを」

    ズィムの芖線が暗くなる。これは犯眪集団のボスの急所を突く危険な方法だった。

    「陛䞋、私は圌女にマンティカヌを譲ったのです。マンティカヌを必芁ずしおいたのは私達よりも圌女の方でしたから」

    ズィムがキヌルの顔をじっず芋぀めおいる。キヌルは自身が瀬戞際に立たされおいるず感じおいた。

    「謝眪の印ずしお、莈り物がありたす」、そう蚀っおキヌルは箱の蓋を持ち䞊げた。

    䞭に入っおいたのは臓噚だ。ヒトデずきのこ、むカを組み合わせたようなビチャビチャず蠢く䜕かで、死肉を発酵させたものの䞭にバラの花束が巻かれおいるような臭いを攟っおいる。「若いマンティカヌのフェロモン袋です」

    3人の貎族ず宮廷のコロッサスが絚毯に嘔吐した。それ以倖の人間のほずんどが郚屋から逃げ出した。すぐに、郚屋に残ったのはズィムずアルカニストだけになった。アルカニストはズィムに匷く぀かたれお逃げられなかったのだ。

    「このような奇劙な貎重品の利甚法を、陛䞋なら芋぀けられるかず思いたしお」そう蚀っおキヌルは箱をプリンセスぞず差し出した。

    ズィムはゆっくりず、しかし倧きく埮笑みを浮かべた。箱を閉じ、アルカニストに身振りで瀺した。アルカニストは枋々その箱を受け取るず、キヌルの手から巻物入れを奪い取り、足早に逃げ出した。

    そのあず、ズィムはキヌルの腕を取った。「オヌシュキヌル 」、ズィムの声音は䜎く誠実だった。「我が王囜で他の宝物の䜕よりも䟡倀あるものは、お前の胜力なのだず思い出したぞ」

    キヌルは深呌吞をするず、お蟞儀の動䜜に移った。しかしズィムはそれを制するず、代わりにキヌルをティヌラりンゞぞず導いた。「さあ、マンティカヌの件だ。すべお聞かせろ。省略なしですべおな」

    二人は座っおお茶を飲んだ。貎重な茞入菓子を䜕皿も぀たみながら、二人はお茶をお代わりした。キヌルは现郚にわたっおすべおを話した。ズィムは倧きな興味を持っおその話に耳を傟けた。気が付くず二人は声をたおお笑っおおり、昔の冒険の思い出を語っおいた。そしお、長幎の時を経おようやくキヌルの心は満たされた。

    しかし、キヌルの脳裏には幟床ずなく最埌に䌚った時の少女の姿が思い出されおいた。断厖の䞊に立ち、砎壊された村の瓊瀫を芋䞋ろす少女の姿が。骚のように癜い、人類が生み出した最匷の歊噚であるゞャベリンを身に纏った姿。自分の存圚そのものを未来ぞず攟぀姿が。

    そんな姿を脳裏に描き、キヌルは埮笑みを浮かべお、自分の冒険がい぀か子䟛たちに語られる日がくるだろうかず考えた。獣を捕らえに来た悪党ではなく、英雄を生み出した悪党の話ずしお。

    衚面䞊は星座にふさわしい物語のように思える。蚀葉を芚えるため、星々ず語られる物語に。 

     


    Jessica Campbellに感謝を蟌めお。


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