
「Lost in Random」ランダムな音楽
1と2と3と、4、5、6!
「Lost in Random」

現代的メッセージを伝えるおとぎ話を成立させるには、プレイヤーの心を掴むストーリーに添える華が必要です。そして、ストーリーの核心や雰囲気にふさわしいサウンドスケープと芸術性も不可欠ですね。まずはサウンドスケープからご紹介します。
今回は作曲家のブレイク・ロビンソン氏とクリエイティブディレクターのオロヴ・レッドマルム氏をお招きして、「 Lost in Random」 のサウンドと音楽について語り合い、その真髄に迫ってみましょう。
ブレイクさん、ようこそ!まず初めにご自身の事と、作曲家としての経歴について教えてください。
ブレイク: どうも!ブレイク・ロビンソンといいます。作曲家としての経歴の半分はゲーム音楽の作曲やオーケストラ版の編曲をしていました。最初は、テレビCMのジングルやテーマ音楽を作曲していて、その後、ゲームのトレーラーやスポット向けの音楽を作り始めました。それから全編のオリジナルサウンドトラックを作るようになったんです。
作曲以外では、音楽制作ソフトウェアの開発者として働いていて、他の作曲家(そして私)が作った映画、テレビ、ゲーム音楽をオーケストラ版に編曲したサンプルライブラリを作成しています。振り返ってみると、実に驚きの多い、恵まれた音楽人生だと思いますね。なんせ、ロンドン交響楽団の方々に演奏していただいて録音したり、ハンス・ジマーやエリック・ウィテカーなど、とつもない才能を持った作曲家の方々とコラボレーションすることもでき、さらには自分でオリジナルの作曲ツールやサウンドを作成もできたんですから。
オロヴ: こんにちは!またお会いしましたね。私はゲームのディレクター以外だと、ちょっと変わったテイストのコミックを描いたり、瞑想をしたり、死ぬほど「スター・ウォーズ」の映画を鑑賞しています。時々全部同時にやったりします。私はプロではありませんが、サウンドデザインや作曲も好きですね。それから、面白い声や音を出すのも好きですね。本作をプレイした皆さんはご存知かもしれませんが、「Random」の世界にはダイシー、ウヨチシ、フォーマン、その他諸々のイヤな奴らが登場します。彼らの声も、私が担当したんですよ!
おふたりの経歴について教えていただき、ありがとうございます!なかなか強力なタッグのようですね。
それでは、本作の音楽について掘り下げていきましょう。まずは広い意味で、“ダークなおとぎ話”の音楽を作るにあたって、何らかの研究を行ったりしたのでしょうか?その中でどんな発見がありましたか?
ブレイク: 実はダークなおとぎ話のような音楽をずっと作ってきたので、研究や準備の必要はなかったですね。「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」や「ティム・バートンのコープスブライド」などのヘンリー・セリックやティム・バートンの映画を観て育ちました。そのメランコリックでありながらも、愉快なサウンドトラックが大好きだったんです。 そういった先人の音楽から得たインスピレーションを大事にしつつも、自分のスタイルやテイストを施すことを心掛けています。
クラウス・リンゲレド(ZoinkのCEO)とオロヴ・レッドマルムのふたりが冗談で、ネットで「ダニー・エルフマンに似たいい感じの音楽」で検索すると私の名前が出てきたと言っていました(笑)。ですが、実際エルフマンと私の作品との共通点については、多くのコメントが寄せられているんです。私は彼やジェームズ・ニュートン・ハワードなどの音楽を聞いてオーケストラの作曲を学んだので、これは的を得ていますね。
オロヴ: クラウスと一緒にブレイクの音楽を聴いた時の事を思い出します。お互いの目が合って、「これだ!」と思ったんです。ブレイクが送ってくれたデモ音源が、これ以上無いほど本作にフィットしていました。もちろん他の作曲者の選択肢も探っていましたが、結局いつもブレイクがいいねという話になっていました。むしろ、ブレイクでなければと思っていたんです!そして、彼とはとても刺激的に仕事ができました。
ストーリーにぴったり当てはまる音楽というのは、本当に特別だと思いますね。今出てきた作曲家の方々が、ブレイクの好みだというのはわかる気がします!
更に具体的に「Lost in Random」という点では 、ゲーム全編にわたって繰り返し使用した音楽スタイルはありましたか?例えば、特定の楽器が常に使用されているとか、同じメロディーが繰り返し登場するとか、全体的な音楽の曲調などです。
ブレイク: 「Lost in Random」は 私のスタイルにぴったりの作品だと感じました。 初めてオロヴと話して、本作の壮大なビジョンを聞いた時の事を今でも覚えています。作品全体の印象や、キャラクターの裏側にある行動原理、ステージデザイン、そして全編を通して流れる音楽に何を求められているのかなど。その時、絶対にこのプロジェクトに関わりたいと思いました。というのも、指定された条件に合わせて作曲するのではなく、自分の好きなスタイルで作曲できるんですから。実際作曲家として働く上で、こんな機会はめったにないんです。電話を切るとすぐにスタジオに舞い戻りました。プロジェクトが始まるのが本当に楽しみだったんです。
オロヴ: ブレイクが、街のテーマ、不気味な感じのBGM、フィールド曲を送ってくれたのを覚えています。どれもこれ以上ないクオリティでした!最終的に街のテーマは「ツータウン」に使用しました。具体的には、売り人通りですね。グースーが初めて“大都市”を目の当たりにして、カルチャーショックを受けるシーンです。

ブレイク:回りくどい言い方になりますが、「Lost in Random」に関しては、曲の多くが“ブレイク流”なんです 。私はメロディーに力を入れるタイプの作曲家なのですが、「Lost in Random」では本当に楽しく作曲できました。印象に残る、濃いキャラクターの達のおかげです。早い段階で時間を作って、メインキャラクターのテーマを書き上げました。ストーリーの中で今まさに起こっているイベント、その後に起こる事の絶妙なヒントや伏線を盛り込みました。特定のキャラクターにはモチーフとなる楽器をあてました。例えば、ダイシーには遊び心あるサイコロをモチーフにしたピチカート。シーモアは憎めなくて心が広いキャラクターなので、低めのハスキーな木管楽器で表しています。そしてクイーンは、哀しみを表すチェロと、怒り狂った際のホルンと合唱を対比させることで、そのキャラクター性を表現しました。
オロヴもものすごい「 スター・ウォーズ」マニアで、私達はふたりともジョン・ウィリアムズの有名な音楽の大ファンなんです。 彼の素晴らしい音楽から影響を受けた要素も、本作サウンドトラックのあちこちに染み込んでいます。女王のテーマには仰々しい金管楽器のセクションがあり、壮大なイベントを盛り上げています。そして壮大な弦楽器のメロディが、クイーンの感傷的なシーンを彩っていきます。
オロヴ: ええ、そうですね…(気まずそうに笑いながら)「スター・ウォーズ」はかなり参考にしますね。ですが私達は、フィールド曲には世界観に根差した、民族音楽のような、変わったメロディーや楽器を使いたいと思っていました。そしてグースー、キースー、そしてクイーンの全編に渡る物語には、より壮大な曲調を求めていたんです。“ランダムの世界観に根差した”音楽を実現させるために、19世紀の作曲家グスタフ・マーラーに注目しました。マーラーは夢心地な民族音楽と壮大なオーケストラ音楽の使い分けに優れていて、それが人間の気分の移り気な感じに似ているんです。私はブレイクと共にウィリアムズやマーラーとよく似たアプローチを見出すことができました。キャラクターのテーマを繰り返し登場させることと、時にはテーマ同士を“組み合わせる”ことです。音楽に、ビジュアルや会話と並行したストーリーが盛り込まれているんですね!
興味深い話ですね!今の話を、更に深堀りしていきましょう。ステージやキャラクターのテーマ曲の独特な部分を保ちながら、広大なサウンドスケープに馴染むようにする必要があったと思いますが、どのようなアプローチがあったのでしょうか?
ブレイク: オロヴは特定のステージにおいて、はっきりと方向性を持っていました。私達が熱心に取り組んだことは、スコアに少し変わった楽器を導入した点ですね。ツータウンのテーマには個性的なハンマード・ダルシマーを使っていて、フォーベルグにはチープで、少し壊れたような鍵盤ハーモニカやハーモニカの音色を加えました。それぞれの地域の背景にある伝承を暗示するような細工がしてあるんです。キャラクターのテーマに関しては、まず最初に各ステージの曲を大まかに作曲することから始めました。ストーリーの重要性が高いゲームなので、ステージ曲のモチーフをサウンドトラックの設計図として、残りのBGMの作業に当たりたいと思いました。そうすれば、それぞれの街のBGMが全く異なる印象になり、プレイヤーは音楽でもどのステージに居るか感じることができるはずです。例え音楽が、雰囲気や緊迫感を変えた編曲版に変化したとしてもです。
それから、私はオーケストレーションに関しては非常に古風でして。80年代・90年代の映画音楽のような、大規模でアコースティックな、昔ながらのオーケストラの手法を使うのが得意なんです。ちょっと変わった楽器編成や、ステージのBGM、そして伝統的なオーケストラのサウンドを混ぜ合わせることで全てが上手く繋がりました。なじみがあって本作の世界観に根ざした音楽が実現できたのです。
オロヴ:ステージ毎にしっくりくるテイストを模索するのは、すごく楽しかったですよね。スリーダムの士気が上がるような、行進曲の要素を取り入れた曲や、フォーベルグのちょっと調子が外れたような曲など。言ってみればビュッフェのようなもので、いろんな国の料理が一度に味わえて、更にひとつの作品として成立しているような感じです。
この場を借りて、私と辛抱強く仕事をしてくれたブレイクに感謝したいと思います。時に楽器の名前が出てこなくて、「バロック時代のピアノみたいな音」と言葉で説明したり、求めているものに近い曲のリンクを送って、「これ!このティン・トンていう音だよ!」と言ったりして作業していたので。
ブレイク:それこそ私が作曲する上で一番楽しいと思ってる部分で、だからこそじんわりと、メロディー中心のアプローチができるんです。「音楽」という形の新しいキャラクターを作り出すような作業で、画面上に映し出されるゲームのビジュアルと両立させていくんです。密かにプレイヤーの心に残るような、ユニークで印象的なメロディーを目指して。この作業が、本作のゲーム音楽に携わる上で楽しかった部分ですね。おかげで力強い楽曲を生み出すことができました。力強くても、ここにいるオロヴとその仲間たちが作った世界で巻き起こっている出来事をかき消してしまうことはありません。あと、オロヴのおかげでダルシマーを「バロック時代のピアノ」と呼んでしまうこともあります(笑)
クラシック音楽の響きは、おとぎ話の音楽のにぴったりですね!ゲームをプレイしていると、ゲームの中のサウンドと音楽が物語の一部のように感じました。音楽が盛り上がったり、なくなったりするなど、どちらかが勝っている時もあれば、ゲーム内のサウンドと音楽が同じくらい聞こえてくる箇所もあります。ゲームの音響全体を作り上げるにあたって、どのようにアプローチしたのでしょうか?
オロヴ: まずブレイクと私が、ステージ毎にどんな曲が必要になるか、規模に応じて大まかなリストを作りました。大体はエリア毎に戦闘BGMとテーマ曲がふたつずつ必要でした。最初にボツにしたドラフトは、結局ボス戦と他のステージで使用することになりました。そして特定のキャラクター同士が絡むパートには、ブレイクが専用のBGMを書いてくれました。
リードサウンドデザイナーのマルクス・クラング(ブレイクに加えてこの場を借りて感謝したいメンバーです)が、曲の配置で私が思い描いていたのとは違うアイデアを次々と提案してくれました。ゲームをプレイしながら、ブレイクが作曲したBGMを頭の中で流して、これでいいかな、と思っていました。ですが、とあるBGMが他のところで流したほうがしっくり来るかな、と思う瞬間があるんですよね。そんな時は「音楽マップ」を作って、どこでどんな音楽を流すべきか書き込みました。それを最初のドラフトとしてマルクスに送るんです。
もちろん、「ラッキーな偶然」もありました。作中には、おそらく悲しい音楽が流れるであろうシーンがあるのですが、音楽が流れず、完全な沈黙がその場を支配するんです。最終的にはその沈黙が、シーンの運命的な雰囲気を一番引き立てていました。ゲームをプレイしたことがある方は、私がどのシーンの事を言っているか、お分かりもしれません!
ブレイク: 私の方は、ムービーにつける曲を作っている時に、プロジェクトの後半で一度書いたモチーフや曲に立ち返ることができたので、それが良かったですね。プロジェクト前半の大半は、街やキャラクターのテーマ、戦闘BGM、それからフィールド曲などのループ音楽に時間を費やしていました。そして後半に入って初めて、才能あるデザイナーやアニメーターが作ったゲーム映像を見ることができました。それからは、画面上の大きなセットで飛び交う壮大なアクションに華を添える曲を作るべく、作曲作業に没頭していました。
その多くは、すでに作曲した曲や、アイデア、モチーフの膨大なストックから作りました。アクションに合うように更にブラッシュアップして、オロヴからゲーム画面に合っているかどうかフィードバックをもらったんです。先ほど話しにも上がった無音状態のパートをキープするべきかについても模索しました。時にはモチーフやテーマ曲を使うよりも、オーケストラで大きな効果音を短く奏でたほうが、物語を効果的に演出できる場合もあります。
ナレーターの存在によってゲームのサウンドや音楽に影響はあったのでしょうか?それとも全くなかったですか?
オロヴ: こちらも、マルクスがサウンドのミックス作業を頑張ってくれました。プレイヤーの皆さんがナレーターの声を常に聞き取れるように、音楽の起伏と効果音を微調整してくれたんです。マルクスの頑張りが一番光った仕事のひとつは、新しいエリアに突入した時の演出です。「これがワンクロフト」や「グースーはファイブトロポリスに足を踏み入れた!」など、エリアを紹介するナレーションのバックに、そのステージのテーマ曲が流れるアイデアを出してくれました。期待と神秘に満ち溢れた演出ですよね。ナレーターの自身がミステリアスで、プレイヤーの期待を盛り上げる存在という立ち位置にマッチしていますね!
ゲーム音楽やサウンドについて、他に読者の皆さんに伝えたい点はありますか?
ブレイク:先ほども言いましたが、「Lost in Random」は、私を心から夢中にさせてくれた、一生に一度のプロジェクトでした。オロヴとその仲間達のおかげです。 今回作った曲には、練りに練った細かなアイデアが大量に盛り込まれています。例えばダイシーのテーマは、その軽快なメロディーでダイスの面を表現している傍ら、色々なキャラクターのテーマが密かに混ざっていて、その後に起こる出来事を暗示しています。10分くらいの長いミュージカル調の曲もあるのですが、この曲は本作のストーリーや住人達の総まとめのような曲です。私をネットでランダムに見つけてくれたオロヴとクラウスに感謝しています。(編集者注:意図的なダジャレではありません。でもありがとうございます!)そしてこの作品のサウンドトラック制作に関わる機会をくれてありがとう。プレイヤーの皆さんが、音楽も楽しんでくれると良いなと思っています。私が作曲を楽しんだのと同じくらいに!
オロヴ: ランダムに結びついた縁に私も感謝しています!ブレイクにプロジェクトに加わってもらえて、本当にラッキーでした!ブレイクがいなければ、「Lost in Random」は、全く違った作品になっていたと思います。「スター・ウォーズ」は スペースオペラと呼ばれていますが、私は「Lost in Random」を「サイコロのオペラ」と呼びたいですね。音楽はストーリーに命を吹き込むものですが、独立したコンテンツでもありますから!それでは皆さん、温かいズッパジュースで一服しているときも、壮大なバトルに挑んでいるときも、本作のステキな音楽にぜひ没頭してください。

素敵なアイデアですね!ブレイクさん、オロヴさん、ランダムな質問全てにお答えいただき、ありがとうございます(編集者注:意図したダジャレです)。また、ダークなおとぎ話のサウンドトラックを聴きたい方は、こちらのSpotifyプレイリストへアクセスしてみましょう。すぐ下ですよ!
ゲームも音楽も、楽しんじゃいましょう。そしてこれを忘れずに…「 ランダム万歳!」
